行商とワープロとCDと・・・Vol.1361
「行商」のことだが、もう30年ばかり経つだろうか。
昭和の終わりごろの話かもしれない。まだワープロが全盛期だったころだった。
「こんちわーっ!」と威勢のいい声が部屋中に響く。
机の上のワープロに向かっていた顔が一斉にその声の主の方に向く。
中には、顔を上げず、今まで以上に必死にワープロに向かう振りの者もいた。
おばさんと目が合うと、おばさんがすぐ寄って来て「お兄さん! 買ってヨ」と言われることがわかっているからだった。
目を伏せて居ないふりをしていても無駄だった。
おばさんに後ろからポンと肩を叩かれて結局何かを買わされていた。
後で誰に言うわけでもなく「何で、勝手に職場に入って来るんだよ」などと小さく遠吠えをしていた。
そんな気が弱い優しいヤツもいた。
おばさんは千葉から唐草模様の大風呂敷を担いでやって来た。
風呂敷の中には、落花生はもちろん、いろいろな物が詰まっていた。
その行商のおばさんがやって来ると、部屋の空気が一変した。
黙々と静かに仕事している部屋が急に明るくざわめいて、私は好きだった。
毎日やってきたら迷惑だったろうが、絶妙のタイミングでやって来る。
「そろそろかなあ」などと懐かしくなってか噂をしていると必ずと言っていいほどやって来たものだ。
「行商」さんの長年のプロの感がなせる業だったのだろう。
「お兄さん、買ってヨ」の声がなつかしい。
そういえば、あの頃は何でもあり、だった。
いろいろな人が自由に?出入りしていた。
高い?ワープロも買ってしまったし、クラシックファンでもないのにCD全集も買った。
背広の仕立て屋さんもやって来た。

*ワープロは数年前に泣く泣く廃棄したが、全集は後生大事にまだ持っている。もちろん埃を払って時々は聴いている。引っ張り出したら、懐かしいCDもこぼれ落ちたので一緒に撮ってみた。平成のはじめ頃に関わったCDだ。
そしてすぐにワープロの時代は終わり、机の上にはパソコンが置かれ、部屋の前は施錠され、カードがないと入れなくなってしまった。
会社を辞めてから、顔を出すことがあるが、カードがないのでインターホンで呼び出して扉を開けてもらい中に入っている。
あのおばさんのように元気に明るく大声で「こんちはっ!」とは言えず、静かに部屋に入っている。
♬ 時代 ♬
今日もご訪問くださってありがとうございました。
From Tokyo With Love 東京より愛をこめて
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